午後の雰囲気-図書館の日々

図書館
给给 杜によるPixabayからの画像

 僕は図書館で働いていた。
 仕事自体はとても楽しかった。
 いろいろあって辞めた。
 辞めてしまった今だからこそ、本音を交えた話ができたらと思う。

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昼から午後へ

 午前中の仕事がひと区切りしそうなあたりから、図書館に来る来館者の数が急に増えてくる。この増え方は館の立地条件によって微妙なズレが生じる。
 住宅地の中にある図書館だとお昼の少し前から人の流れが活発になる。買い物を済ませた子供連れのお母さんたちが家に帰る途中で寄り道と子供の散歩コースも兼ねた感じで立ち寄ってくるのだ。そのため児童書のコーナーは人口密度が高くなる。児童エリアは子供たちが声を出しても他の閲覧席に影響しないように設計が工夫されている館が多い。そのためお母さんたちも安心して連れて行けるようになる。同じような人が集まるのでそこで友達を作る子供もいる。よく来る人たちだと親同士も顔見知りになっていたりする。図書館が交流の場になることは地域にとってもいいことだ。子供たちの笑顔を見ていると働いているスタッフも気持ちが和むし、自然とやる気が出てくる。いつでも大歓迎だ。
 ビジネス街の中にある図書館だと、また雰囲気が違う。近辺で働いているスーツ姿の方々が昼休みの間に予約した本を取りに来る。ほぼ同時刻に一気に押し寄せることになるのでカウンターに行列ができる。この時間帯はカウンターに立つスタッフの数を増やして対応する。スーパーマーケットのレジ打ちのような忙しさになる。ようやく行列を捌いたかと思うと次の波がやってくる。おそらく近くの信号が青になって渡ってきた人が一斉にやってきてそういう波を作っている。わーっと来てはいなくなり、静かになったかと思うとまた賑わう、この繰り返しになる。昼休みの1時間は図書館員たちは戦闘モードに入っている。なので基本的に新人さんはこの時間はカウンターに入らない。ほとんどの来館者が限られた時間の中で来ているので、もし対応が滞ったりすると急に苛立ち始める。この空気を感じ取って新人は焦ってしまい、パニックで何もできなくなり、さらに利用者を困らせることになる。そういった事態を避けるために人員配置には気を遣っている。
 昼を過ぎて14時くらいになるとお昼の勢いは無くなっていくが、館全体で見ると午前中より利用者の数が底上げされている。児童エリアで子供に絵本を読み聞かせているおばあちゃんがいる。ひとりで図鑑を読んでいる子供もいる。一般席で勉強していたり新聞を次から次へと読んでいく年配の利用者もいる。ひたすら週刊誌をはしごしている人もいる。過ごし方は様々だ。

 余談だが図書館には古い通説のようなものがあって、それは
「図書館は本を読むところであって勉強するところではない」
 という考え方だ。
 長年図書館利用を続けている年配の利用者にもこの認識があったりするし、古参の職員にこだわりがある人もいる。図書館に閲覧席とは別に「学習室」が設けられているのはこの考えがあるためだ。勉強だけしている人が席を埋めてしまって場所がなくなる、というのがこの理由として言われていて、この議論はけっこう歴史が長い。こういった背景があるために、「図書館の資料を使った勉強ならOK」とするところもある。
 図書館の愛好者は多く、せっかく本を読みに来たのに別の目的で席を埋めている人がいて自分の場所がない、と残念がる人の気持ちも理解できる。とはいえ多くの学生や社会人も含め、図書館という場所ほど勉強に適した場所もないだろう。邪魔な誘惑もなく、雑音もなく、同じように勉強している人がいて自分も頑張れる、しかもタダで使える。こんな場所は他にない。もし勉強を完全に禁止にしたら学生はほとんど寄り付かなくなるだろう。実際、中高生の図書館利用は少なくなっていて、その年代の利用率を上げるのは図書館が課題としているところでもある。
 この状況は少しずつ変化している。海外の図書館をモデルにした「エリア分け」の考えに沿った図書館設計が徐々に広がってきている。最近、老朽化のため改修や立て直しをしたり新規で開設された図書館などには自由に喋ったりしても良い場所と静かな環境を維持する場所がそれぞれ互いに影響しないような設計がなされていたりする。館内にカフェを設置する館も増えてきた。

図書館的夏休みの風物詩

 勉強のために来ているはずの学生たちが、友達が集まったことでお喋りが止まらず、教科書などそっちのけでゲームを始めたりしてしまうことがある。夏休みになるともはや風物詩的に発生する。図書館員たちは彼らに対して再三注意を繰り返すことになる。大抵は大人しくしてくれるものだが、生意気な年頃の子供たちなので、悪ノリがすぎることもあり、注意する側も目くじらを立てて警戒することもある。静かな環境を求める他の利用者にとっては迷惑にしかならないからだ。
 個人的な見解にはなるが、中高生の利用を増やしたいと言いながらおしゃべりを禁止するというのは無理があると思っている。小学生までは親の庇護下の元で言われたようにやっていた彼らの社会が、友達との関係をメインにしたものに変わっていくのがこの世代だ。友達と一緒にいるのが楽しくて仕方がないのだ。この気持ちを汲めなくては彼らの足を図書館へと積極的に向かわせることはできないだろう。
 また、一般の社会人でも、多少の雑音があった方が集中できるという人も多いはずで(僕もそう)そういう人にとってはカフェの設置はありがたい。音に関してはいろんな段階のエリアがあった方が多くのニーズに応えられる、というのが近年の図書館設計のベースになっていると思う。

気持ちの良い場所を目指している

 というわけで人が増えてくると席の取り合いが起きたり新聞の取り合いが起きたりする。まれに喧嘩に発展することもある。ほとんどは言い合いになったところで近くの人がスタッフに知らせてくるので仲介に入る。一度だけ突如殴り合いが始まったこともある。知らせが来てその場に行くと一方はすでに逃げ、現場では新聞が数紙その場に散らばっていた。このときは警察を呼ぶ事態となった。原因は新聞の取り合いらしいが、なぜ殴り合いにまでなったのか、それ以上の詳細は警察に任せたのでわからない。どうか落ち着いて利用してほしいと思う。
 日々こういったことが起きるので、図書館の中には様々な掲示がある。新聞や雑誌は「お一人一度に一紙(一冊)まで」という注意書きがあったり閲覧席に場所取りや音について注意を促すサインが貼られていたりする。それらはすべて図書館員の手作りであり、日々状況に合わせて更新されていく。なにもかもが「全ての利用者に図書館を気持ちよく使ってもらうため」という命題のために行われている。すべての人に、というのが公共施設の難しいところだ。

 そういった苦労はあるが、図書館員たちはいろんな人に来てもらって存分に利用してほしいと願っている。そのために展示を企画し、環境を整え、利用者と接している、はずだ(たまには不真面目なのもいる)。電源が使えるようにしているところも増えているし、インターネット用の端末や過去の新聞記事を容易に検索できるデータベースもある。利用の幅は意外に広いのだが、知られていないサービスも多い。時代とともに利用者からのご要望も様々に変化していくので、図書館もそれに応じて変わってきた。サービスの多様化やエリア分けの考えもそのうちのひとつと言えるだろう。

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