なぜか昨日はやりすぎた。
テンションに従うままにレンタサイクルで遠出して60キロほど走ってしまった。ここのところの運動不足をまるで顧みない行動で、案の定今日になって疲れがドッときた。
昨日はきちんとバス時間を見計らって朝イチで淡路島を目指した。
南あわじ市の西淡志知でおりてすぐ近くの観光センターで自転車を借りる計画だ。
風景写真が撮れればいいのだがあまり無軌道に走るのもどうかと思って観光スポットを探していると目に入ったのが伊弉諾(イザナギ)神社だった。
国内外、洋の東西を問わず、僕は神話がらみの名称に弱いところがあってどうにも反応してしまう。他にもおのころ神社もあって、この二つを回りたいと考えた。地図をざっと見て「いけるんじゃないの」くらいに考えていた。
さて観光センターにてレンタサイクルの利用を申し出ると、なんと電動タイプのものがちょうどメンテナンスの日程となっており、ママチャリしかないと言われた。これはさすがに計算外。だがしかたない。
まあいいかと思いつつ、
「伊弉諾神社行こうと思ってたんですよね」
と洩らしたところ、センターのおじさんはいたく驚いて
「ママチャリでそりゃ無理だよ。片道30キロあるよ」
とご忠告くださった。
自分でもそう思ったので内心あきらめていたところ、おじさんが
「ちょっと待ってて」
といいつつバックヤードに下がり、しばらくして
「一台メンテ早めにやってもらうから、待てる?」
と。急遽段取りをつけてくれていたのだ。
恐縮していると
「せっかくだから」
と、ポンポンとことを運んでものの10分くらいで出発の用意が整った。
しかも借りた自転車が電動の中ではスポーツタイプに属するもので、しかも速度計がついていた。時速20キロのペースを保てば十分に時間的余裕を持って目的地にたどり着けるという計算が頭の中で成立する。
この辺の計算はかつての通勤経験が役に立った。
いきなりの予想外な展開がありがたく面白い。
こういうことが起きるのが旅先のいいところだ。
早口で元気なおじさん、ありがとう。
おじさんは伊弉諾神社へ行って帰ってくるための最も効率的なルートも教えてくれ、僕は地図を持ってセンターを後にした。
行きは海岸線を走り、帰りは内陸の道を行く。
海岸線は高低差が少なく平坦な道。
帰りはおのころ神社への最短路。
そしてセンターへと戻る即席の周回ルートだ。
僕はかつて片道20キロの道のりを毎日チャリで通勤していたことがある。
だから正直30キロと聞いても驚きはしなかった。
しかしあの頃と今では体力が違う。
その辺りを電動アシストが相殺して何とか走れるだろうという算段だったのだ。電動の有無はその日の死活問題だった。
しかし昨日はふたつの誤算が生じた。
まずは運が味方しなかった。
海岸線を走っている間、ずっと向かい風だったのだ。
いくら電動とはいえ機能はあくまでアシストであって、足を漕ぐのが前提である。まず自分で動かさないと補助を得られない。風の抵抗はそのまま足への負担となることに変わりはなかった。
そんな訳で時速20キロのペースを保ちつつ逆風を進むことになった。
もう一つの誤算は情けない話になるのだが、自分の体力低下をみくびっていたことだった。この影響は次の日になって現れるのだが、走っている最中に足の変なところが痛くなったりして漕ぎ方を工夫しなければならなかった。
そんなこんな経過ではあったが、何とか目的のルートは制覇し、
国海の神話にかかるふたつのパワースポットを訪れることができた。
伊弉諾神社は流石の雰囲気というか、ああいった場所特有の静寂を感じることができ、自然と気持ちが落ち着いた。
あの種の静けさの中にいると前職で味わったような心の傷が癒される。
(もう人間と関わりたくない)
という感覚が少し薄らいだ。
もうしばらくその場に居座りたい気持ちを抑えて折り返しの道をゆくことにする。時間的に気持ちの余裕をなくすとペダルを漕ぐのが辛くなる。
宿を取った鳴門と南あわじを結ぶバスは1日に三本しか行き来していないからその時間を逃すことはできない。
しかも帰り道は山間の道を抜けて行くので起伏がある。上り道を越えていかないといけないこともあってちょっとした危機感も覚える。
そんな時間的制約が先を急がせることになるのだけれど、本来の目的は風景探しでもあるので、「おっ」と思う景色に出会うとその旅に止まって写真を撮ることになる。
いちいち足を止めながらの行程に「間に合うかなー」と思いつつも何とかなりそうな気配を感じ始めていた。
坂を登れば下りがある。
下りで距離を稼げばいい。
上りは電動アシストの助けがあるし、そこまで勾配がきつい訳でもない。
都心の坂の方がきついくらいだった。
下りはとにかく気持ちよく進んでいく。
風を切るひさびさの感覚。
サイクリングを楽しむ余裕が生まれてきていた。
とこんな感じで思い切り一日中走り回ったのだった。
こういう時はブレーキが効かない。
鳴門近辺に戻ってからも近場の展望台を2、3か所まわって本格的に筋肉痛を感じ始めた。
宿に戻って飯を食い、風呂から上がってベッドで横になると、一瞬で睡魔が来た。
朝に目が覚めたら、とにかく体が重かった。
ついでに頭も重かった。
「きょうはもういいや」
と無理はしないことにしたのだった。
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