僕は図書館で働いていた。
仕事自体はとても楽しかった。
いろいろあって辞めた。
辞めてしまった今だからこそ、本音を交えた話ができたらと思う。
図書館の利用者は老若男女で幅広い。子供は乳幼児から大人は九十代のお年寄りまで来館する。本を借りるにはカードの登録が必要で小学校に通う前の子供だと親が代理で登録できる。小学生は身分証なしで自分で登録できる。お年寄りで寝たきりになったりしている人だと家族や知り合いに登録を委任することもできる。この場合は委任状が必要になる。どちらも両者の身分証明が必要になる。委任状の場合は一般的な委任状の様式に乗っ取っていれば大丈夫だ。ただし細かいルールは自治体で違いがあるのでそれぞれの場所で確認して欲しい。
基本的に誰でも登録できるし、出入りができる。公共の施設なので当たり前と言えば当たり前なのだが、このために難しい対応を迫られる人も多く訪れる。この辺をテーマに語りだすとキリがないので別途少しずつ書いていこう。個人情報の漏洩にあたらない範囲で書くとなると少し事実をいじることもあるかもしれないが、その際はご容赦いただきたい。
今回は前回の続きみたいなもので、図書館の1日の業務を追っていく。
予約の本がご用意できました
前の回で予約本の回収や所在の分からなくなった不明本のことを書いたが、予約の準備ができるとその旨を利用者に伝えたり伝えなかったりする。伝えない場合とは利用者が望まない場合のみで、基本的には連絡する。
連絡はおもに2通りで、メールか電話がほとんどだ。今ではほぼメールでの連絡に切り替わってきている。まれに葉書での連絡もある。コストの問題もあって基本的には避ける方向になっている。葉書連絡になるのはメールや電話での連絡に不自由が発生してしまうときだ。具体的にはお年寄りでメールの使い方がわからず、なおかつ耳が遠くなってしまって電話での会話も難しい場合などだ。これはどうしようもない。とはいえ、自治体にもよるが切手一枚でも節約する風潮があり、いずれ葉書連絡は撲滅されるだろう。
中の人の感覚からすればメール連絡に設定していただくのが一番ありがたい。なぜならただ「予約が用意できました」と連絡するだけのことではあるが、まれに問題が発生するからだ。問題は主に電話連絡の際に起きる。
連絡先が携帯電話ならほぼ問題は発生しない。固定電話で本人が電話に出ない場合などは多少の緊張を持って要件を伝える。おおかた問題はないが、たまに本人ではない利用者から「本のタイトルを教えてください」と言われることがある。これができないのだ。
図書館の自由に関する宣言
「図書館の自由に関する宣言」というものをご存知だろうか。有川浩の『図書館戦争』シリーズがヒットしたことで耳にした人は多いだろう。この宣言には大きく6つの項目があり、それぞれに図書館という存在が有すべき、あるいは発揮すべき自由を謳っている。その6つめの項目には先の5つを受けた形でこう記されている。
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6.ここに掲げる「図書館の自由」に関する原則は、国民の知る自由を保障するためであって、すべての図書館に基本的に妥当するものである。
この任務を果たすため、図書館は次のことを確認し実践する。
<中略>
第3 図書館は利用者の秘密を守る
<以下略>
(日本図書館協会HPより抜粋)
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誰がどんな本を読んでいるのか(読書事実という)、ということは個人のプライバシーに属する問題であり、それを知りうる図書館員はそのことを外部に漏らしてはならない、とされる。読書事実の秘密を守ることは図書館員として働くには欠かせない認識になっている。
本人じゃないと伝えられない
図書館は個人が借りたり予約している資料のタイトルをたとえ家族であっても本人以外に伝えることは原則としてできない。そしてこの原則は非常に拘束が強い。あえて言えば本人の死亡が確認される場合などの特別な状況でなければ原則が崩されることはない。だがこの認識が一般の利用者にはなかなか理解してもらえないことがある。
例えば、「主人が出張でしばらく帰らないが、返却期限を過ぎてしまうので返却したい。タイトルを教えて欲しい」ということがあったとしよう。電話をかけてきたのは奥さんの善意なのだが、図書館員はタイトルを教えられない。本人の連絡ではないからだ。「ご本人でないとお伝えできません」と背景含めて説明して理解してもらえたらいいが、納得していただけない場合、長い対応になってしまうことがある。家族なのに伝えられないというのはおかしい、と言って食い下がられる。この問答で数十分から1、2時間かかったり、一回の対応ですまないことも起こりうる。だが言えないものは言えない。押し問答だ。そしてもしこうした圧に屈した場合、こんどは出張から帰ってきたご主人本人にさらに厳しいお叱りと非難を受けることになる。どう言われようと教えるべきではない、と。そうなると一回の対応で済まないどころか弁護士含めて数ヶ月の対応にもなってしまうとかしまわないとか。
また起こりがちな例としては中学生になった子供のお母さんがこの問題に直面する。おそらく多くの図書館では中学生くらいの年齢を境に「自意識の芽生えた一個人」という扱いをし始める。よって彼らがどんな本を読んでいるか、家族には伝えられない。この話はセンシティブな問題を含む。子供の精神面の成長具合は個々人で差が出てしまうので一概に判断しきれない部分がある。さらに親の立場に立ってみるとそれまで一心同体のように扱い、扱われてきた子供が急に大人の扱いを受けることによる変化に驚きや戸惑いもあるだろう。それぞれの家庭の教育方針なども影響する。
親にとってはそれまでと同じように続いてきた日常が外部によって急に変化をもたらせられるわけだから、反発は理解できる。こういった場合は相手の気持ちを汲んで「では今回はいままでと同じようにさせていただきます」とし、その上で図書館の運営方針に理解を求める形をとる(断固として伝えない所だってあると思う)。その時の電話ではヒートアップしていた人も、そのあとで時間をかけて「子供が成長した証」として考えてもらえることを期待する。このパターンは同じ人が2度、3度と続くことはほとんどない。少なくとも僕の経験上はなかった。
ささやかなお願い
図書館の仕事はサービス業の一面がある。中で働いている人は常に利用者に気を配っている。迷子になる子供がいたり、迷子になった子供を探している親がいたりする。
相手の気持ちを汲むことはとても大事だ。柔軟な対応をとるべき局面があって、責任者にはその判断力が求められる。その時々の対応をスタッフと共有していくことで徐々に次のリーダー候補が育っていく。
だが不毛なやりとりも時には発生する。
正直いってめんどくさいときもある。
ここまで読んでくれた人にはぜひお願いしたい。
図書館で本を予約する時には連絡方法をメールにしてあげてください。
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